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オランダ

オランダのエネルギーニュートラルでサーキュラーなホテルに泊まってみた

植物や通風、地中熱など自然の力を使って熱環境を整えるホテル・ジャカルタ(2023年10月、オランダ・アムステルダム、写真はすべて筆者撮影)

ホテルは、宿泊客がいかに快適に過ごせるかを追求するサービス業だ。しかし、オランダ、アムステルダムにある「ホテル・ジャカルタ(Hotel Jakarta)」には各部屋や共有部分にもエアコンがない。しかも、エネルギーを自給自足するエネルギーニュートラルを実現している。実際に泊まってみると、部屋内は寒くも暑くもなく快適そのもの。一歩ホテルの中に入ると、5 階建ての建物にジャングルのような庭園が広がり、まるで熱帯植物園にいるようだ。実はこの庭園も室内温度を安定させる大きな役割を持っている。内装は木や竹をふんだんに使い、自然の力を最大限に使ってエネルギーを使わずに快適なホテルライフを提供する同ホテルに宿泊して、サステナブルな仕組みを取材した。(環境ライター 箕輪弥生)

室温の冷却作用をもつ庭園ジャングル

熱環境を緩和させる役割をもつグリーンは各部屋に通じる通路にも続く

かつてオランダ大航海時代にインドネシア拠点の「東インド会社」に向けて船が出港したことから、ジャワ島と呼ばれる場所にホテル・ジャカルタはある。ホテルの名前は、オランダとインドネシアをつなぐ場所だったことから名づけられた。ジャワ島といってもホテルから市内中心部までは自転車やトラムで十数分の距離である。

最上階のバーからは豪華客船が停泊する港が見え、ここが今も昔も港湾都市であることがわかる

建物に入ると中央にはヤシの木やバナナなど熱帯植物が29種生い茂るトロピカルな庭園に圧倒される。亜熱帯の植物は水を多く必要とするが、地下には雨水を16万リットル貯められる貯水槽があり、これにより潅水をしている。

ホテルのマネージャー、ティモ・メインツ氏は、「ジャングルは単に鑑賞用だけでなく、ホテル内の室温を下げる機能も持っている」と説明する。ガラス状の天井は太陽光パネルを兼ねていて、電力と光をホテル内に届ける。これはまた、植物の光合成を応援し、植物の蒸散作用による気化熱が室温を下げる。

サステナビリティとトロピカルなジャカルタの雰囲気を楽しんでほしいと言うティモ・メインツ氏

レストランや室内プールからもアトリウムの緑が眺められ、オランダにいながらにしてどこかインドネシアのリゾートにでもいるようだ。

ガラス状の天井は、気温によって自動的に開閉する。室温が上がりすぎた時は暖まった空気を逃がして通風を取り入れるために自動的に開き、気温が低い時は閉じられる。

天井のガラスは温度や天候によって自動で開閉され(左)、その上にはソーラーパネルがある(右)

電力は、主に建物の屋根と日当たりの良い壁面に設置された1700平方メートルのソーラーパネルが作り出している。電力が余る時は系統に売り、足りないときはネットワークに貯めておいた電力を使う。

エアコンを使う替わりに地中熱、排熱などで熱環境を整える

部屋にある室温を設定するコントローラーとQRコード

ジャングルの脇を通ってホテルの部屋に入ると、室内にはエアコンが見つからない。その代わりに、室内の温度を適温に保つ工夫について説明するQRコードが木製のパネルについているだけだ。
筆者が滞在したのは10月の頭で、寒暖の差が激しく、気温は20℃を超える時もあれば夜は12℃ぐらいまで下がった。

エアコンがなくても室温を適温に保っている技術のひとつは、ATES(Aquifer Thermal Energy Storage)と呼ばれる帯水層蓄熱システムの利用だ。夏は地下水の温度が地上の気温より低いので、地下100メートルから取水した冷たい水で床を冷やす。その際に、温度が上がった地下水は帯水層に戻し、熱を蓄えておく。

逆に冬場は夏に蓄えた熱を利用して床暖房をする。その後、温度が下がった地下水は帯水層に戻し、冷気を蓄えておく。このように夏と冬で地下水の熱を交互に利用することで、エネルギーの有効利用をはかる仕組みだ。

さらに廃熱の熱回収換気システムもこれに加えて使っている。室内の空気を換気する時に熱を回収する。電気をなるべく使わないためには熱の有効利用が非常に重要であり、それがエアコンを使わなくても快適に過ごせるひとつの秘訣になっている。

断熱を強化し、エネルギーニュートラルを実現

窓の外のバルコニーにもガラス戸があり、この空気層が断熱効果を生む

ホテル・ジャカルタがエアコンなしでいられるのは熱の利活用や通風の工夫だけでなく、断熱の強化にもある。ホテルの部屋から外を見るとまずバルコニーがあって、その先にもガラス戸がある。北海道や東北などに、玄関が二重になっている「玄関フード」がついている家が多いが、仕組みはそれに近い。

メインツ氏は「バルコニーの空気層が断熱のためのバリアになっていて、これが部屋の中の温度を一定に保つのに非常に有効に働いている」と強調する。

滞在してみると、部屋にはエアコンから送られる風もなく、室温が適温に保たれ非常に快適だった。ホテルは2019年に建てられたが、メインツ氏によるとこれまで実質的にエネルギーニュートラルで経営しているという。

循環する再生素材を多用し、サーキュラーホテルへ

フロントも天然木や竹などの再生素材をふんだんに使っている

アムステルダムは2050年までに完全な循環経済を達成するという野心的な目標を掲げたサーキュラーシティだ。このため、建築物に関しても再生可能な素材をできるだけ使った循環型の建築を推奨している。

ホテル・ジャカルタも、構造と仕上げの約9割は、木材や竹などの再生可能な資源で構成されている。6000立方メートルの木材はすべてがFSC または PEFC 品質マークのついた認証材を使う。木や竹を使った建築はCO2の排出量が少ないだけでなく、新しい木や竹を植えることでCO2を蓄えることにもなる。特に竹は成長が早いので再生しやすい。

従業員のユニフォームをリサイクルして作られた椅子の座面

コンクリートも一部使っているが、リユースコンクリートを多用している。使用済み素材のうち、寿命が短いものやリサイクル可能なものは、ほぼすべて分解して再利用する予定だ。

従業員が着ているユニホームも再生可能だ。ユニホームの生地そのものもリサイクル素材から作られ、使用されなくなった後は、椅子の素材などにリユースされている。さらに、自転車大国でもあるオランダではホテルの貸自転車もリファービッシュされたものだ。

「コンクリート、木材、ユニホーム、自転車などすべての資源は新たな使い道で使われるようにサーキュラーな取り組みをしている」とメインツ氏は説明する。

リファービッシュされた自転車が並ぶホテルファサード

年間2000万人を超える観光客が訪れるアムステルダムでは、市の方向性をとらえ、20ほどの意思あるホテルが「サーキュラー・ホテルズ・リーダーズ・グループ」を形成し持続可能でサーキュラーなホテル運営について検討しているが、ホテル・ジャカルタはその中心的な存在となっている。

このような取り組みを通じて、ホテル・ジャカルタはいくつかの建築の賞をとっている他、建築の持続可能性を評価する認証制度「BREEAM-NL」で92点(100点満点)と高得点を得ている。

室内プールは近隣の住民も利用できるなど、地域との関係を重視している

ホテルはエネルギーをほぼ使わずにも快適に過ごせるが、このところ欧州の気候も大きく変化している。気候変動が今後さらに厳しくなることをとらえてどう考えるかを尋ねるとメインツ氏は「更なる自然の力を使った冷却システムの追加など、変化に対応していかないといけないだろう」と答えた。

現状では、ホテルがインストールしたさまざまな技術や仕組みはうまく機能し、ほぼエネルギーニュートラルで稼働しているが、快適さを維持していくためには、気候変動に合わせた更なる進化が求められていくのかもしれない。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・マーケティングプランナー・NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。